新聞販売について

モノを売るということ

今回は新聞販売の仕事について書きます。業界紙で3年ほど携わった新聞販売の仕事を通じて学んだ体験談です。一般紙にも通じるものがあるはずです。

この記事では

  • 業界紙のコンテンツ
  • 新聞は売れるか
  • それでも売るには…

について書いていきます。新聞販売は一般紙であれば携わる可能性が低い業務ですが、業界紙なら避けられません。にも関わらず難易度はそれなりに高いです。

社会人の早い段階から「モノを売る」スキルと考え方を学んでいた方が得策だと思います。

匿名記者

モノを売るには相手とのコミュニケーションが必須。記者になったときの取材の練習にもなると思って取り組みました

業界紙のコンテンツ

私が働いていた建設関係業界紙では主に3つの情報で紙面を埋めていました。

  • 工事の発注予定
  • 施工中の工事概要
  • 入札結果

の3つです。

工事の発注予定

工事の発注予定とは官民問わず、この先どんな工事を発注するのかを記した記事です。例えば「〇〇自治体は来年、✕✕工事を発注する」「JRは5年後までに〇〇線の1延線を決めた」といった内容がこれに当たります。

匿名記者

業界紙の購読者である建設会社は、この記事を読むことで自社が参入できそうな工事かどうかを判断します

ただし、業界紙の記者が民間の工事発注予定の情報をあらかじめ入手できるのは珍しいです。大多数の民間企業は、新しい建物を建てる際にいちいち発表などしないからです。

地方の大規模施設やインフラ関係など施工額が何十億円にも上る工事は発表するでしょうが、世の中には何億円、数千万円規模の工事は無数にあります。

施主はその都度いちいち発表などしません。その公になっていない情報を掴んでくるかが業界紙記者の腕の見せ所なのです。

読者は記事を読んで自社が把握していない工事概要を知ることで、営業をかけるかどうかを判断する、という期待を業界紙に込めているわけです。

施工中の工事概要

工事概要の記事は、工事の進捗状況などを記します

例えば建築工事だったら、「〇〇に建設中の大型店舗の詳細設計がこのほど終了し、建物の外観図面が完成した。来月から基礎工事に取り掛かる」などと書きます。

一般的に建築工事は設計後に躯体工事、内装工事、外構工事と進んでいきます。工事の種類が違うということは参入する業者もそれぞれ異なるということです。

ですから読者は「お、そろそろ外構工事なのでウチが参入する余地はあるかな」と期待したり、同業他社の記事をで読んで「あの会社はもうこんな新しい工法を取り入れたのか」と驚いたりするわけです。

もっとも、建築工事というのは工事を受注した会社が受注段階で内装はココ、外構はココなど施工を担う下請け会社を決めている場合がほとんど記事を読むことがビジネスチャンスに直結するとは言えません

匿名記者

読者としては世間話のネタを探す程度の位置づけでしょう。自社の経営に直接結びつく話ではありません

入札結果

入札結果は国や都道府県、市町村が発注した公共工事の落札業者を紹介します。一覧性があって見やすいため、一昔前は業界紙に載った受注業者一覧を元に業界内で次の落札業者を決めていたそうです。

落札金額なども記されているので「あの値段でよく落札したな」「最近あの業者ばかり落札している。次回はうちも攻めるぞ」など熱い会話の種になります。

匿名記者

建設業組合に取材に伺った際、ふと部屋の奥に目を向けると、電気も点けず暗闇の中に車座になっているおじさんたちが。事務担当者は「話し合いの最中」と言っていましたが…

新聞は売れるか

上記のような内容が書かれた業界紙を3年間販売してきましたが、普通に売っていては売れません。コンテンツをアピールしたって意味がないんです

売れない理由
  • 業界紙記者より建設会社の営業マンの方が工事の発注予定に詳しい
  • 受注企業と下請け企業はだいたいセット
  • 自治体のホームページにも同じ内容が載っている

営業マンの方が10倍詳しい

業界紙が売れない第一の理由は、記事より建設会社の営業マンの方があらゆることに詳しいからです。

営業マンは自分の担当エリアで、今後どんな工事が発注されるか、今どんな工事が行われているか、将来家を建てたい人はいるかに至るまで常にアンテナを張っています。

そこに専従するのが営業マンの仕事だからです。ほかの業務も抱えるただの記者が勝てるわけありません。

業界紙の記事は業界関係者なら誰でも知っている当り前の内容が大半です。

匿名記者

優秀な業界紙の記者は建設会社の営業マンへ転職することもありました

受注企業と下請け企業はセット

規模が小さく自社の営業マンがいない業者は、だいたい大きな建設会社の下請け企業として工事に参入します。

なので積極的に工事情報を求める必要がないのです。いろいろと抜かれた金額ではありますが、定期的に工事を割り振ってもらえるイメージです。

逆に言うと業界紙を読んで「この工事の下請けに入りたい」と思っても、いつも仲良くしている親会社がその工事を受注できていなければ、下請け工事に入ることはできません

そんな場合に備えて小規模業者は大規模業者2、3社と仲良くしているのが普通です

入札情報は無料で見れる

業界紙が得意としている入札情報(落札結果)は自治体のホームページ上で無料で確認できます

なぜ業界紙がそれをまとめているかというと見やすさです。これに尽きます。

建設業界は高齢化が深刻である意味、紙と親和性がある世代が経営層に多いです。なので一覧性を担保した見やすさというのは大きなメリットになるのです。

その一方、若手の経営者からは「無料で見れるものになんで金を出すんだ」「自分で調べて見やすい表を作る」などの意見があります。

実際に新聞購読をお願いした際に言われた言葉です。

匿名記者

若干事情は異なりますが、ネットで見れるので新聞は不要という意見は一般紙にも通じます

それでも売るには

とは言え、こちらもサラリーマン。新聞を売るのが仕事です。

新聞の中身に魅力がないなら、販売する人の人間性に魅力を感じてもらってお願いするしかないんです。営業マンとしては二流かもしれませんが、私は泣き落とし戦法と呼んでいました。

白紙でも売ってくると豪語するトップセールスマンの中には、とにかく頭を下げて御用聞きのようにどんな依頼にも対応する人もいました。

購読してもらえるかどうかは、結局のところ人間性が好かれるかどうかが最大のポイントだと思います。その上で、以下のような合わせ技も行いました。

購読依頼の合わせ技
  • 人材紹介
  • 提灯記事の執筆
  • 接待

人材紹介

建設業界は慢性的な人手不足。技術者も営業マンも足りません。どのような人材であれ、社員になれる人(40代まで)を紹介してあげるととても喜ばれます。

人材紹介は簡単ではありませんが、探しているアピールでも構いません。相手のために業務外のことをする姿勢が伝わればいいのです。

恩を感じて「しょうがないから新聞くらい取ってやるか」と思ってもらうことが目的です。

提灯記事の執筆

提灯記事と引き換えに購読してもらうのはよくあります。建設会社は自治体での評価が決まっていて、一定評価以上の会社しか応札できない工事案件があります。

その評価を決める指標の一つに「地域貢献」の項目があり、道路の除草作業やゴミ拾いなどの美化活動が含まれることがあるのです。

建設会社はこの地域貢献活動をした証拠として業界紙の記事を自治体に提出することがあります。そのために記者を読んで取材してもらうのです。

地域貢献活動は工事がない土日に行われることがほとんどで、休日の半分がつぶれてしまいましたが、それで新聞を購読をしていただけるなら安いもの。

購読と引き換えに積極的に取材に行っていました。

接待

今の時代はこのような接待もだいぶ少なくなっていると思いますが、ゼロではないでしょう。

接待が営業の成績に結び付くのか、結び付くとしてもそれをやる必要があるのかこれを考えるのはあなたです

主導権は自分にあることを忘れないでください。そうでないとズルズル仕事の沼にハマってしまいます。

匿名記者

「会合に行くから付いてきて」「今から(午後10時)飲み会合流しなよ」などプチストレスな接待が多かったです

まとめ

極論、新聞は売れません。記事の中身が薄いからです。

ですので新聞を売る人の人柄に惚れてもらうしかないのです。そのための手段をいくつか紹介しました。

建設業界ではなかったとしてもこの構造に大きな違いはありません。どんな行動が相手のメリットにつながり、購読契約を獲得できるか試行錯誤してみてください。

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