はじめに
私はマスメディアで20年以上記者をしています。キャリアの大半を新聞で過ごしたので、まずは新聞記者の仕事内容を紹介します。テレビ記者の仕事についてはコチラの記事で話します
この記事では
- 新聞記者の仕事内容
- 新聞記者の採用試験(新卒向け)
- 新聞記者の待遇
- 新聞業界の今後について
について私の体験に基づいて解説したいと思います。
業界紙に3年、全国紙に4年、地方紙に15年ほどいましたが、今回は主に日刊紙(全国紙や地方紙)についてです。
新聞の区分け
一口に新聞といってもいろいろジャンルがあります。朝日新聞や読売新聞といった全国で発行されているものを「全国紙」と言います。朝日、読売、毎日、日経、産経の5紙が該当します。
次は「ブロック紙」です。複数の都府県をまたいで発行している新聞の総称(北海道は例外)で、北海道新聞、河北新報、中日新聞、中国新聞、西日本新聞の5紙が該当します。
一般的に全国紙は5紙、ブロック紙も5紙です。ブロック紙ではありませんが、静岡新聞、新潟日報など発行部数が多い県紙もあります
次が「地方紙」または「県紙」です。基本的に都道府県単位で発行していて、その県で最も読まれている新聞を指します。
最後が「地域紙」。北海道の十勝毎日新聞や青森県のデーリー東北など、ある都道府県の一部のエリアだけで発行されている新聞です。
基本は全国紙→ブロック紙→地方紙→地域紙の順で並びます。しかし、例えば中日新聞は一部の全国紙を上回るなど例外もあります
この全国紙、ブロック紙、地方紙、地域紙は1カ月に1度の休刊日を除いて毎日発行されることから日刊紙(一般紙)と言われます。(ただしスポーツ紙は除く)
記者の仕事
新聞記者の仕事は取材して記事を書き、新聞に掲載することです。そして取材は大きく4ジャンルに分類できます。
- お付き合いの取材
- 当局の発表モノ取材
- 発表ではないが当局からの独自取材
- 自分で調べて新事実を報じる調査報道
お付き合い取材
新聞社に入社した新人は、記事を書く訓練を兼ねてこの手の取材に日々繰り出します。「一日警察署長に〇〇就任」「△△の展示会が~で開かれている」「◇◇イベントが~で始まった」といった記事を読んだことはありませんか?
内容にもよりますが、こういった記事は緊急性が低く、いつ掲載しても困らないことから「街ダネ」「暇ダネ」などと呼ばれます。
普段記者が担当しているエリアでお世話になっている人から取材の依頼を受けることが多く、関係性を築くためのお付き合い取材として行うことが多いのです。
「お付き合い」といっても軽んじるのは間違いです。ここで培った人脈があとで大きなニュースにつながることも。そもそも記者の仕事に欠かせないのは「どれだけ頼れる人を知っているか」なのですから
発表モノ取材
新聞記事の8割はこの分類のネタだと思います。行政や警察、企業などは毎日数え切れないほどのニュースリリース(発表文)を出しているのです。
「〇〇町に△日、地域おこし協力隊員が赴任します」「◇◇の疑いで✕✕を逮捕しました」「弊社は☆☆という新機能の製品を開発しました」
こんな文章が記者が詰める記者クラブには毎日大量に届きます。
この中からニュースとして価値がありそうなものを記者が選んで取材するのです。
リリースには必要な情報がすべてそろっているわけではありません。記者はそのリリースを出した担当部署に連絡し、補足取材を行って記事を書きます。
独自取材
いわゆる特ダネ、独自ダネにつながる取材で、「〇〇であることが✕✕新聞の調べで分かった」という書き出しの記事です。
例えばA社、B社、C社、D社が同じ事件を追っているときに、A社だけが独自に警察から情報を掴んで記事にしたとします。
B、C、D社が盛り込めなかった情報の記事が翌日のA新聞には載っているわけです。これを業界用語でA社の「特ダネ」といいます。逆にB、C、D新聞に載ってA新聞だけ載せられなかった場合はA社の「特落ち」と言います。
特ダネは記者の名誉です。記者を目指す以上この特ダネ競争は避けられません。逆に特落ちは最大の不名誉で最悪の場合担当を変えられる可能性も。。。
調査報道
発表しないどころか不都合であれば当局が隠そうとする内容を、記者の地道な取材で掘り起こして世に公表する報道です。その記者がいなければ闇に埋もれていた可能性が極めて高く、最も意義深い取材とされています。
その一方で莫大な労力がかかるわりに当たる可能性が極めて低く、かつ間違っていた場合は記者人生にかかわる大ダメージを被ります。
このレベルの話になると当該記者だけでなく、編集局全体でこの記事を掲載するのか否かの判断を下すことになるでしょう。調査報道で名を馳せた有名ジャーナリストはコチラです。記者を目指すなら著作は必読と言っていいでしょう。
私が知る限り社の全面バックアップがあってできた調査報道の例は多くありません。記者個人の徹底した取材が実を結んでいるケースがほとんどです。時には自分が所属する会社と対立することもあるようです。
新聞記者の採用試験(新卒向け)
以前の入社試験は最初の筆記試験で受験者の8割が落ちると言われるほどふるいにかけられました。近年では「人物重視」で筆記試験の成績が悪い者も面接に呼ぶそうです。
もっとも新聞社の経営を取り巻く環境が厳しいことは大学生も知っているため、優秀な学生が集まりにくくなっているようです。
ここでは内定に至るまでの入社試験を紹介します。
会社の規模によって異なる選考回数
基本的には規模が大きい会社ほど入社するのが難しいと考えてください。
全国紙 | ブロック紙 | 地方紙 | 地域紙 | |
選考回数 | 4、5回程度 | 4回程度 | 3、4回程度 | 2、3回程度 |
上記は書類選考を除いた筆記と面接を合わせたおおよその選考回数です。中には宿泊させて飲食しながら面接をしたり、街頭取材に行かせて記事を書かせたりするなど多種多様な選考が行われています。
面接官として登場するのは、社会部や政経部といった各部の部長級、それを取りまとめる編集局長級、会社の取締役である役員という順番が多いです。
ただ、まれに人事部や現場のデスク(部長級よりも下位)による面接が入ることもあり、これがあった場合、全国紙で面接回数は4回ほどになるかもしれません。
筆記試験の内容
時事問題が問われる筆記試験と作文(小論文)はどの社もほぼ必ず出題されます。これに英語が入る場合もあります。
筆記も作文も地道な努力が必要ですが、作文は練習をしているかどうかで大きな差が表れます。対策についてはコチラのページで詳しく解説します。
筆記試験の対策は毎日新聞を読んで時事知識を頭に入れておくこと。新聞の種類は問いませんし、簡単に言えば新聞を読まなくてもニュースを網羅的に把握しておけばOKです。
ただ、その方法で最も手っ取り早いのが新聞の購読です。最低でも試験の3か月前、欲を言えば半年前から読んでおき、問題集も購入した方が良いかと思います。
新聞記者の待遇
新聞記者の給料は民間企業の中でも高い部類です。全国紙やブロック紙であれば20代のうちに年収600万円に達します。
国税庁が発表した「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、2021年の給与所得者(アルバイト、非正規雇用など含む)の平均年収は443万円、正社員に限ると508万円です。
※国税庁・民間給与実態統計調査調べ
全国紙(毎日、産経除く)や一部のブロック紙は入社3年程度で年収約600万円に達します。一方、地方紙で600万円に達するのは20代後半から30代前半といったところでしょう。
記者のほとんどが20代のうちに日本人の平均年収を上回ることになります。年収1000万に達するのは全国紙、ブロック紙で30代半ば~30代後半、地方紙では50代半ばから50代後半です
全国紙(毎日、産経除く)は年収ベースで地方紙の1.5倍高いイメージです。地方紙記者30歳で年収約600万でしたが、友人の全国紙記者は約900万円でした
新聞業界の展望
新聞記者の年収は高い部類でしたが、新聞業界の待遇がこの先も維持されるかというと懐疑的です。各社とも「稼ぐ」ために試行錯誤をしていますが、早期退職を募るなどして人件費を削っている全国紙も…
業界の未来が明るいとは言えない理由は以下の通りです
- 人口減少が進んでいる
- 読者離れが加速している
- 新聞紙という媒体が時代から取り残されつつある
- ネットの有料購読者獲得がうまく進んでいない
人口と購読者の減少
そもそもターゲットである日本人の人口が減っています。加えて東京一極集中という言葉の通り、地方からの人口流出も激しいです。これは特に地方紙に厳しい結果です
さらに、新聞の主な読者層は現在60代以上でしょう。この世代がいなくなると極論、紙の新聞を読む人はゼロになります。
子どものうちから購読習慣を身に着けてもらおうと、各社はNIE(Newspaper in Education)などの取り組みにも力を入れていますが、浸透しているとは言えないのが現状です。
ご自身の周りにどれだけ購読者がいるか考えてみていただければ納得できると思います。
「紙」の終焉
そもそも紙の時代ではないのです。毎日新聞は今年(2023年)6月から紙代などの価格高騰が進んだとして朝刊のみ月額4千円に値上げするとしています。
紙代の高騰に関しては、ロシアによるウクライナ侵攻で原料となるパルプの輸入が滞るなど時事的な要因も絡みます。ただ、紙代が値下がりしたところで購読料が下がることはないでしょう。
新聞社の経営を支える「広告収入」も減っています。
新聞広告とは新聞紙の下4分の1ほどにあるスペースです。このスペースの価格単価を決めるのは各社ですが、その裏付けとなるのは発行部数です。
発行部数の減少=広告効果の減少とみなされ、価格交渉に持ち込まれやすい環境なのです。
インターネット広告とは比べ物にならないほど大きな利益が出る紙の広告収入減は経営に大きな打撃を与えています。ネット広告では全く穴埋めにならないのが現状です。
- 新聞印刷用紙の値上がり
- 広告収入の低下
ネット上の有料購読者に活路
こうした現状を受け、各社はネット上で新規購読者の開拓を進めています。主な取り組みは
- ネットでしか見れない記事の充実
- 少数の記事を低額で読ませる
- サブスクリプションの浸透
の3つです。
①に関しては、ネットの特性(無限に記事を掲載可能)を生かして新聞紙に収容できなかったネタを活用しようという試みです。ただ、長いだけの記事は読まれません。専門性がある、筆力がある、話題性があるなど要件が必要です。
②に関しては、無料で月5本まで記事が読める、などの取り組みです。新聞紙購読者のみ月10本無料だったり、契約者以外でも何本か読めたりと各社、戦略の違いがありますが、ネットで新聞記事を読めるという意識の醸成を目的にしています。
③に関しては、新聞社にとって最もありがたい話です。紙代不要、印刷用の機械(輪転機)不要、販売店不要で従来の新聞購読料と同じ料金を読者からもらえるのですから。ただ、ネットフリックスやアマプラなどネット上には1,000円以下のサブスクがたくさんある中で、3000~4000円を本当にとれるのか…チャレンジングな価格設定が必要だと思います。
どの戦略を取ろうとも、もはやインターネット上で新聞を読んでもらうほかないのです。ここ10年は勝負所になるでしょう。
まとめ
新聞の区分から採用、待遇、業界展望など簡単にまとめました。
- 志望者が少なく、受験には有利
- これまでの好待遇は期待薄
- ここ10年で会社として生き残れるか決まる
業界としての経営展望は明るくないですが、ジャーナリズムを実践したい人にはまだまだおすすめの業界です。新聞社で力を蓄えてフリーになった人もたくさんいます。
取材して文章を書きたい、という思いのある人は受験してみるのもいいと思います。