業界紙って何?
業界紙という言葉を聞いたことがありますか?私が新聞記者を目指していた学生の時はなじみがありませんでした。
社会には建設業界とか教育業界とか〇〇業界という言葉があふれています。業界紙というのはその業界でのみ購読されている業界に特化した記事を載せた新聞社のことです。
主な購読層は業界の会社であるため、毎日新聞を発行しているわけではなく土日は休刊だったり、3日に1回の発行だったりさまざまです。
この記事では
- 業界紙記者の仕事内容
- 業界紙の待遇
- 一般紙との違い
- 業界紙の展望
などについて記していきます。どうしても記者になりたい人は就職受験の選択肢に入ってくる業界です。私の体験談も交えながら紹介していきます。
業界紙記者になるまで
私は業界紙で3年間記者をやっていたことがあります。理由は簡単で一般紙の記者に受からなかったからです。
難関だった一般紙
2000年ごろに一般紙記者になる人はそれなりのエリートでした。受験者の8割が筆記試験で落ちていましたし、面接では名だたる名門大学の学生と競わなければなりませんでした。
ある全国紙やブロック紙で最終選考に進みましたが、全落ち。実力不足もあるでしょうが、大きな会社の就職試験は運の要素もあると思います。
どうしても記者になりたい。でも一般紙の受験は終わってしまった。秋採用も終了した12月ごろに大学の教授に業界紙の存在を教えてもらい、受験して建設関係の業界紙から内定をいただきました。
名刺は「記者」でも・・・
業界紙に就職するまで全く分からなかったのですが、一般的な業界紙の仕事って広告や購読の「営業」なんです。「記者」という肩書の名刺を持ちながらです。
記者職だけやっていられる業界紙はほぼないかと思います。日刊工業新聞社や日本農業新聞社は記者職の専従があると聞いたことはありますが、私は務めたことがないので分かりません。
- 新聞の拡張販売
- 新聞の広告営業
- 購読料や広告料の集金
- 取材
感覚的には①~③が仕事の8割の時間を占めました。取材は2割あるかないか。上司は「自分の給料分を稼いでから取材だ」と口癖のように言っていました。
新聞販売はノルマ付き
業界紙の記者のメイン業務の一つは新聞購読契約の獲得です。私がいた会社では3か月に1回、1カ月間の販売強化期間というのがありました。
1人15件の契約獲得がノルマです。達成できない場合はボーナスに影響し、最悪の場合は20~15万円減額されます。新入社員の場合は半減すると言っていいでしょう。
業界紙の内容はかなりマニアックなので一般人は読みません。基本的には読んでくれる会社の新規開拓になります。
一方、大きな会社ならすでに購読しているか、年間予算が組まれているため、飛び込み営業でお邪魔してすぐに契約という流れはまず望めません。
なので、最初のターゲットは個人商店など社長の一声で決まる規模の会社になります。それでも新聞の内容が薄かったら読んではくれません。
最終的には泣き落としのような形で契約を頂くことも。販売強化期間は過酷です。全社員でノルマを達成できるのは1~2割程度でした。
広告も営業もノルマ付き
広告営業にもノルマがありました。こちらは年度当初の目標計画時に決まるのですが、1年通じて〇〇万円の広告契約を達成してくださいと決まるのです。
業界紙というのは月ごとに〇〇キャンペーンという特集企画を組んだりします。例えば建設業界だったら7月は労働災害をなくすための全国安全週間ですので、6月に「安全な施工を進めるために」をテーマにした企画記事を書いたりするのです。
広告営業の常とう手段は主に2つ
- 特集記事の中で御社の取り組みを紹介するので広告を出してください
- この企画に賛同していることを示すために協賛をお願いします
①については、記事の内容が広告出稿企業のPRのようになります。もらえる広告の大きさによって特集記事のボリュームが決まります。
②については、記事の内容がどの会社にも偏らない普遍的な内容になります。名刺サイズの数万円の広告を何件も寄せ集めて数十万円にするというのが一般的です。
このような特集記事や正月号企画、暑中見舞い企画など通年通して企画展開することで1年間で数百万円のノルマを到達するわけです。
これが未達の場合は来年度の査定や出世のスピードに影響します。
業界紙の記者になるということは↑の新聞販売と広告営業は避けられないと思っていた方がいいです。仮に取材専従だったとしても、業界の意向に反する内容は書けないというのが基本スタンスです
集金と取材について
この2つはメイン業務ではないので簡単に説明します。
集金は購読料や広告料のお金を回収するため企業に出向くことです。
取材は官公庁に行って工事の発注概要を聞いたり、施工の進捗状況を聞いたりします。業界の種類によって取材先が団体になったり、大企業になったりする程度の違いです。
総業務時間の2~3割しかこの業務に充てられません。一方で私は購読料を踏み倒されたり、発注予定工事を役所よりも先出しして怒られたりしたことがあります。
メイン業務でないからといって気は抜けません。
業界紙の待遇
一般紙と比較すると給与は高くありません。私が入社した建設業界専門誌は入社3年でも年収400万円に届きませんでした。業界紙の中では比較的、給与が高いとされる会社でしたし、販売ノルマも広告ノルマも達成していたにも関わらずです。
- 初任給大卒約24万円、1年目年収約330万円
- 土日休み(月1回程度土曜の午前出勤あり)
- 夏季休暇3、4日、年末年始休暇4、5日
入社時の同期は10人ほどいましたが、2年目で6人、5年目までに8人辞めました。50代の課長級で年収700万円程度でした。
この業界には珍しく実力本位性だったので階級によって年収も変わり、部長級で900万円程度でした。
一般紙との違い
一般紙と業界紙では何が違うのでしょう。記事を書く際の最大の違いが2点あります。
誰に向けて記事を書くかと、取材元との関係性の2点です。
一般紙は市井の人が読者なので政治、社会、国際、経済などあらゆる出来事が取材対象です。一方、業界紙は会社が読者なので、業界内の出来事だけ取材します。ゆえに記事はマニアックになりがちです
取材元との関係も違います。最近は一般紙も反権力の姿勢がなくなってきた印象ですが、現場レベルでは警察や行政とやり合うことがまだまだあります。ですが・・・
業界紙は取材元と喧嘩することはありません(私の経験上)。なぜなら狭い業界内で喧嘩してしまうと広告は取れない、ニュースも書けない、ほかの会社からも警戒される―の3重苦に陥るからです
私が建設関係業界紙の記者だったときは自民党政権下で、いわゆるハコモノに対して多額の公金が注がれていました。
建設業界は潤いましたが、一般紙は無駄なハコモノが乱立しているなど批判的な記事を展開。建設会社に営業に行くと「お宅はうちと仲間だからね。一蓮托生だ」とよく言われたものです。
業界紙でもジャーナリズム的視点で記事を書くことがないわけではありません。ただそれは例外であって、業界にとって都合の良い記事を書くのが原則です。
業界紙の展望
業界の景気に左右されがちであり、一般紙に比べて待遇は下がりがちの業界紙。フクニチ住宅新聞(2020年)、日刊海事通信(2018年)など廃刊する社も少なくありません。
個人的には営業が苦手でない人、一般紙の記者への転職を見据えて修行する人なら就職もありだと思います。
ただ、なんの戦略、展望もなく入る業界ではありません。5年後、10年後の自分のキャリアを考えてください。
業界紙に残り続けたいならその会社で役員クラスへの出世を目指すべきだと私は思います。
まとめ
業界紙の仕事や待遇について簡単に紹介しました。
- 記者であっても主な業務は営業
- 業界を批判的する記事はほぼ書けない
- 一般紙よりも待遇は良くない(休日は確保できる)
- 業界展望は明るくない(会社に残るなら出世すべき)
明るい記事ではありませんでしたが、これが実体験に基づく感想です。もちろん私が経験した1社の業界紙の話がメインですが、大きく違っていることもないはずです。
ただ、中には編集専門で記者職だけをやれる業界紙もあるようです。気になる方は採用担当に確認してみることをお勧めします。
ちなみに、人によっては業界紙という呼び方に嫌悪感を抱く人も。専門紙と言い換えるとOKです。受験の際は気を付けてください